ファンドレイジングを活用した挑戦~飛騨市文化財「茅葺き民家」を守る~

岐阜県飛騨市の山あいに位置する「飛騨みやがわ考古民俗館」では、昨年度、本事業を活用し、ふるさと納税を用いて茅葺き民家修復のための寄附を募ると同時に、支援者のデータ分析に取り組みました。専門家のアドバイスのもと、徹底的な現状分析と施設の特徴に合った的確な施策を実施した結果、飛騨市や民俗館の魅力が全国に伝わり、事業開始前の約2倍(令和7年10月末時点)の寄附を集めることができました。今回は、本事業の受け入れを推進した学芸員の三好清超さんにお話を伺いました。

名称飛騨みやがわ考古民俗館
所在地岐阜県飛騨市宮川町塩屋
来場者数848人(2024年)
館種歴史・人文
設置者市区町村
学芸員の三好清超さん

漠然とした悩みを言語化できないもどかしさ

事業に応募したきっかけは何ですか。

三好:過去に、資料のデジタル化にあたり総務省の「デジタル人材派遣」事業を活用した経験がありました。本事業の案内を拝見し、ファンドレイジングの面でも支援していただけるのではないかという期待を持ったため、応募しました。

事業に応募する時点で感じていた課題には、どのようなものがあったのでしょうか。

三好:これまでも、館の規模に比べれば非常に多くの方に有形無形のご支援をいただけているという実感がありました。ですが、なぜ多くの方に支援していただけているのかという背景が不透明である点を課題として認識していました。この「なぜ」が言語化できれば、経済面に限らない多様な形で継続的にご支援いただき、自治体の中でも予算化しにくい「文化・歴史の保護」を次代に継承していけるのではないかと考えていました。

民俗館の敷地内に建つ、築150年の茅葺き民家「旧中村家」

徹底的な分析に裏打ちされた効果的なアクション

「旧中村家」の内観。飛騨の人々の山間での生き方を学ぶことができる

実際に、どのような支援を受けることができましたか。

三好:すぐにアクションに移るのではなく、私たちを取り巻く現状分析にかなりの時間を割いていただいた点が印象的でした。支援者の属性分析や、現地の支援者へのヒアリングを行っていただくなど、課題解決のために我々のバックグラウンドを理解しようとする工夫をしてもらったように思います。そういったきめ細やかな支援のおかげで、なぜ寄附をいただけているのか、なぜ支援いただけているのかについて要因分析の上で言語化できました。

支援を受ける中で得た気づきはありますか。

三好:専門家の方のアドバイスを受けながら、自分たちで支援者の方々の属性分析を実施した結果、10回以上支援してくださっている方や、中には20回以上支援してくださっている方がいることに気づきました。回数、地域、時期など専門家の方に統計としての視点を与えていただいたうえでデータを見渡してみると、寄付者のデータを単なる一覧表として終わらせることなく、数多くの新たな発見を獲得することができました。私たちと同じように、データ自体は集めているけれどうまく活用できていないという施設は全国にあると思います。是非本事業に参画していただき、専門家のアドバイスなどを得ながら、宝の山であるデータの活用に取り組んでほしいと思います。

成功の秘訣は「役立ちの実感」:まったく新しい視点からの工夫

寄付が集まった要因は何だとお考えですか。

三好:専門家のアドバイスを踏まえて、四半期ごとに感謝と成果報告のメールを送付し、今年(2025年)10月末時点で、前年比195%ものご支援を達成することができました。ふるさと納税は今年(2025年)9月を区切りに制度が変わったので、駆け込みでの寄附をいただけたという側面もあるのかもしれませんが、専門家の方の具体的なアドバイスがなければここまで伸ばすことは難しかったと感じております。

寄付を募るにあたり直面した課題はどのようなものだったのでしょうか

三好:ふるさと納税のメニューにただ載せるだけでは寄附が集まるわけではないということですね。この点について専門家から助言をいただけたおかげで、責任者である私の顔をしっかり出すことや、経済面以外の支援の形をできるだけ広げる工夫をしよう、ということを仲間と話し合って決めることができました。私たちの現状を踏まえた工夫が今回の成功に繋がったのではないかと考えています。各館の皆様も様々なご事情を抱えておられるとは思いますが、どのような館であっても、専門家の方の助言を受けながらそれぞれの館に合った工夫をすることが求められるのではないでしょうか。

「旧中村家」の中では、子供たちが参加できるアクティビティも行われている

必要なのは施設の規模ではなく一歩を踏み出す熱意

支援を受けて内部で変化したことはありますか。

三好:「茅葺屋根の修復」をふるさと納税のメニューに入れることについて、当初は市の財政当局からは、小規模館ということもあり集金力が課題であると指摘されている状況でした。しかし、現場の修復への熱意やマネタイズしようとする姿勢や工程を次第に評価していただけるようになりました。特に成果が出初めてからは、以前と比べても予算編成に関して市の財政当局に前向きに検討してもらえるようになりました。また、茅葺屋根の修復時にも、当初の予算では充足できないトラブルが発生しましたが、市の財政当局からふるさと納税をベースにした予算の工面についてアドバイスをもらうことができ、無事修復を完了することができました。今後も文化財をベースにしたふるさと納税のメニューの充実について、市の財政当局をはじめとした庁内各局と前向きな協議を進められると感じています。

支援を受けるにあたって、小規模館であることによるハードルを感じましたか。

三好:小規模館では、どうしても業務が集中してしまう側面があり、支援を受けるとなると担当者の単純な業務量が増加するため、「新たなことを始める」ことに対して、心理的にハードルを感じてしまう人は多いのではないかと思います。ただ、この事業では、事務局の方も報告書の記入などの業務が負担にならないよう工夫してくださっているので、その分の時間をデータ分析にかけることができ、成果につながったのではないかと考えます。それに加え、好事例を交えた説明会に参加してから応募ができたことや、館の適性を見極めて最適な専門家とマッチングしていただけた点もありがたかったですね。

現時点で応募のハードルを感じている方々に、伝えたいことはありますか。

三好:困っている館ほど、一歩踏み出して専門家の支援を受けたほうがいいと考えています。専門家に助言をいただきながら、確かなロジックや様々なデータに基づいた分析をすると、これまで現場の経験論・感覚論に依っていた施策との効果について明確な違いを実感します。私たちも元々は曖昧な課題意識しか持っていませんでしたが、伴走していただいた専門家による的確なアドバイスや客観的なデータ分析によって非常にクリアになり、大きな成果を上げることができました。今時点で漠然としたイメージしかお持ちでない方でも、何かを変えたいと感じているのであれば、是非本支援を受けることを検討してはいかがでしょうか。

<参考:派遣された専門家紹介>

鎌倉幸子氏
クラウドファンディングを含むファンドレイジングの企画・運用支援、SNSを活用した広報・コミュニケーション戦略策定と運用支援、社会的インパクト・マネジメントや組織基盤強化などのコンサルティングを専門としている。現在までに約 100 件のクラウドファンディングの伴走支援(支援総額2億7千万円)を行った経験を有する。

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